「株式会社 石見銀山生活文化研究所(以下、群言堂)」は、島根県大森町という地域に根をはり、息づく会社です。けれど、群言堂の店舗は日本各地にも散らばっています。
その中でも、会長の松場大吉さんが偶然見つけたという、東京・西荻窪の「Re:gendo」(りげんどう)は、特別な存在。大森町にある宿「他郷阿部家」(以下、阿部家)に脈々と流れる“日本の暮らし”を引き継ぐべく、昭和初期の文化住宅を改装して、2011年9月にオープンしました。
大森町から離れても、変わらずRe:gendoで伝えたいこと
── もとくらでも西荻窪特集を組んでいるのですが、単純に西荻の古民家カフェ、としての紹介ではなく、島根県大森町の群言堂さんとゆかりのある店舗としてRe:gendoさんを取材できるのがとてもうれしいです。
大池由紀(以下、大池) ありがとうございます。
── 個人的に2015年の7月頃にお客さんとして、ご飯を食べに来たのですが、その頃と内装もメニューも変わりましたね。
大池 そうなんです。2015年の10月からリニューアルオープンし、むすび膳とにぎり膳の2種類のごはんをつくっています。内装も、以前は2階が物販スペースで「登美」のお洋服を販売していたのですが、2階も飲食のお席も増やし、雑貨をより充実させて、夜は学び舎として、出汁取り教室やワークショップなどをやっていく予定です。
── Re:gendoのお店自体も、昔はどなたかが暮らしていた古民家だったとうかがいました。
大池 はい。築80年超の文化住宅でした。会長が、空家になっているここの物件を見つけて、数年かけて大家さんに頼み込んで、借りることができました。改修は、すべて島根県の職人さんや大工さんが泊まり込みで東京まで来ていただき、おこないました。
── ところどころ、阿部家で見たことのある柄や廃材がありますね……!
大池 店内のテーブルは京友禅の染め板を使ったものですが、たぶん阿部家のバーのテーブルにも同じ廃材が使われていますね。テーブルの脚の部分も、廃線になった電車のレールを再利用しています。他にも、窓に使用しているすりガラスや漆喰に使う材料なんかも、すべて島根県から持ってきました。
── コンセプトだけではなく、実際に触れて見えるものが大森町からやって来たものだと、地域に根づいているという意識を常に持っていられそうですね。西荻窪でオープンしたのは、なにか理由があるのでしょうか?
大池 特に西荻窪にしぼって探していたわけではありません。会長がすっかりここに惚れ込んで、借りることが決まりました。偶然ですね。ただ、どこに出店するにしろ、大森町に根づいたお店ということと「復古創新」の精神は、一貫して大切にしたいと思っています。
一つひとつ心を込めて手のひらでおむすびをむすびたい
── Re:gendoさんで出しているお食事についても、教えてください。先程、2種類のお膳にリニューアルしたとおっしゃっていましたね。
大池 はい。
── むすび膳とにぎり膳ができた経緯というのは?
大池 手のひらが持つ力を、料理に込めたいと思っています。神さまや仏さまに向かって手を合わせますし、具合が悪い時も手当てをする、といいますよね。手に宿る力で、お料理を食べるお客さまに喜んでいただきたいと思っています。
Re:gendoのおむすびは、一志郎窯(いちしろうがま)という滋賀の土鍋で炊いたご飯でむすんでいます。塩むすびに昆布の佃煮をつけて。峰山博気というスタッフには、お会いになりました?
── いえ、阿部家の元番頭さんの峰山さんには、お目にかかれなかったです。
大池 峰山が阿部家にいた時は、かまどのご飯でおむすびを毎日むすんでいたんです。彼はおむすびの達人で、私もレクチャーを受けました。
── 何かコツがあるのでしょうか?
大池 うーん、何度もむすんでカンをつかんでいくので、言葉にするのは難しいんですが……ふつうはおむすびをむすぶ時、手を水で濡らすと思うのですが、峰山には水をつけず塩だけでむすぶのがいいと教わりました。手を濡らすと、お米がべちゃっとしてしまうからです。食べたときに崩れず、だからといって固すぎない、しっかりお米同士がむすばっていて、中がふわっとしているのが理想のおむすびだと思います。
炊きたての、熱々のお米でむすぶので慣れないうちは、すごく熱くてぎゅっとむすべないんです。でも何度もむすんでいると、だんだん手の皮が厚くなってきて大丈夫になってくるんですよね(笑)。
── 手には力があると、群言堂本店の奥野さんもおっしゃっていました。おむすびを一つひとつむすぶのは、ピークタイムになると大変そうですね……!
大池 そうですね。でも、せっかく来てくださったお客さまには、きちんと心を込めてむすんだおむすびを、召し上がっていただきたいんです。
おむすびだけでなくて、おかずも発酵と野菜というテーマで、いつもメニューを考えています。お店で醸したぬか漬けやお味噌を使ったり、塩こうじを使って下ごしらえをしたり、甘酒でつくったドレッシングを使ったりしています。
食を通して暮らしを伝える場所に
── 群言堂さんは、洋服をつくるだけでなく、古民家を買い取って改修したり宿の阿部家を運営していたりと、事業の範囲がとても広いですが、Re:gendoさんはその中で言うと、どういう位置づけになるのでしょうか?
大池 Re:gendoには、日本に伝わる昔ながらの暮らしの風景や文化を、再び伝えていくという役割があります。たとえば窓の外にはいつも季節の野菜が干してあるんですが、こういう風景は都心ではあまり見かけなくなりました。今は島根県から取り寄せた大根を干しているんですが「これくらいの大きさだったのが、今はもうあんなに小さくなったんですよ」とお客さまにお見せしながら、実際にお料理に出して食べていただく。
お店そのもので暮らしの風景をお届けしながら、お料理を出す以外にもワークショップを開催することもあります。食を通して、昔の暮らしの知恵や魅力を感じていただきたいと思っています。
── そういう意味も込めた、「再び」や「リピート」の意味を持つ“Re:”が名前につけられているのですね。
大池 そうですね。以前、所長が「阿部家が神社でいうところの本殿なら、Re:gendoは分社ね」と話していたことがあります。
群言堂は、日本の各地にいろいろな店舗がありますが、そのほとんどが百貨店に入っています。商品だけだと、表現しきれない会社の思いや世界観も、あると思うんです。
もちろんRe:gendoも阿部家のように築227年ほどの歴史はありません。到底太刀打ちできないような厚みが、阿部家にはありますから。けれど大森町から離れても、阿部家が大切にしている、大森町という地域に根づく暮らしを、Re:gendoでも引き継いで大切にすることはできる。そう信じて、みんなでがんばっています。
── 大池さんも店長として働かれる前に阿部家には行かれたのでしょうか?
大池 はい、何度か行っています。
── 阿部家の世界観を継ぐというのは、そう簡単ではないと思いますが、「これはRe:gendoにも活きそうだ」というヒントをもらうことはありますか?
大池 毎日隅々までお掃除することの大切さでしょうか。阿部家は、家のすみずみまで魂が行き渡っているなあと、感じます。行くたびに毎回思いますね……。実際にお掃除していると、毎日同じようで全然違う発見があることに気付きます。今日はお庭の花が咲いたな、とか、枯れてしまったかと思っていた木が芽吹いた瞬間とか、朝の光などをお掃除しながら楽しみたいと思っています。
ですから、都内近郊で暮らすひとに、まずはRe:gendoに来ていただいて、大森町というまちがあることを知っていただければと思います。そこから、「群言堂という会社があって、大森町には阿部家という宿があるらしい」というふうに、徐々に大森町の暮らしが、広がっていってくれたら、うれしいですね。それが、Re:gendoの役割でもあると思っています。
Re:gendoはこんなお店
お話をうかがったひと
大池 由紀(おおいけ ゆき)
1976年、東京出身の両親のもとに生まれて田舎がないため、いつか田舎で暮らしたいという願望を持つ。書籍『石見銀山四季暮らしものづくり』を読んで群言堂の考え方にひかれ、上野桜木店を訪れて入社希望の決意を固める。その後会社に手紙を出して入社することになった。漬物、ご飯、味噌汁がとびきり美味しい、小さな食堂を営むのが夢。
このお店のこと
住所:東京都杉並区松庵3-38-20
電話:03-5941-8664
営業時間:11:00~19:00
お昼ごはん:11:00〜14:30(L.O.)
箸間(あまいもの):11:00〜18:00(L.O.)
定休日:火曜日(祝日は営業)
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